地域経済発展のヒントを見出す
〝3つのコネクティビティ〞の向上が経済発展を促進させる
藤岡(敬称略):これまでSJCでは大手企業を中心にコンサルティングや幹部研修などを行ってきましたが、近年では、中小企業家同友会やメコンインスティテュートなどと連携をしながら、日・アセアン中小企業のビジネスマッチングなどにも取り組んでいます。そうした中、昨年7月に姫路市の企業家グループが新興国ビジネス視察としてタイを訪問した際に、タイ政府観光庁(TAT)長官との面談をセッティングさせていただいたのが、神姫バスさんとの交流のきっかけです。訪タイ観光客増を目指すTATと、タイに向けて関西のPRをしたいという神姫バスを核とした、姫路の中小企業グループの思惑が一致したことが「姫路観光クラスター」のはじまりでした。
AEC発足を控え、大切なのは物質的コネクティビティ、制度的コネクティビティ、人的コネクティビティという三つの重なり合う次元を捉えることです。つまり、道路や鉄道などの物質インフラに加えて、関税や手続きの整備・標準化という制度レベルのインフラ、そして人々の相互理解に基づく活発な交流が域内の持続的発展に不可欠となるでしょう。人と人とをつなげる観光業は、地域の活性化や雇用の創出といった点で経済波及効果が
大きく、エコツーリズムやグリーンツーリズムを通じて、目立った観光資源がない地域の活性化にもつながる可能性を秘めています。
三木:当社は観光バス、乗合バス、タクシーなどを中核にした事業を展開しています。バス事業では地域に密着したサービスを提供していますが、日本の人口減少と経済の低迷に伴い、日本国外からの売上比率を上げるという方針の下、アセアン、特にタイからの集客に注力したいと考えています。昨年12月にはタイの大手旅行会社ITC(International Tours Centre)と業務提携覚書(MOU)を締結しました。ITCと交わした覚書は①タイ人の目線に立った商品企画②タイ・日本での相互販売活動③タイ・日本での相互予約手配④文化交流⑤人材の相互交流―など。また、タイの有力旅行誌とも連携して姫路や兵庫をタイ人に向けて紹介してもらい、知名度アップを目指すとともに、人員を相互に出向させることなども視野に入れています。また、今年7月にはタイ文化省芸術局と播磨広域連携協議会の間でMOUが締結されました。
藤岡:タイにはTAT、日本には日本政府観光局(JNTO)があり、お互いに外国人観光客の誘致をしています。これまで、日本の地方では日本人向けの観光業務が主流でした。海外からの集客を目指したことにより外国人観光客は増えましたが、それに対応できる人材、インフラの不足が課題として顕在化しました。外国人観光客すべてのニーズに対応していくのは大変ですが、姫路で取り組んでいるのは、中間層・富裕層をターゲットにした量より質を追求したパッケージの開発です。国や文化の違いによって喜ばれる〝コト〞というのはさまざまです。
波多:当社は0歳から100歳以上まで、非常に幅広い層のお客様からご愛好いただいていますが、当然個人よって旅行の目的はさまざまですし、同じご家族の中でも食べる物や、泊まる施設好みなど微妙に異なる場合があります。我々の業界は万人から100点満点をいただくことが非常に難しいですが、お客様一人一人のニーズにあった素材を提供出来るよう、様々な旅行商品をご用意し、可能な限り満点に近づけられるよう日々努力をしています。
昨年7月に日本短期観光滞在に限り査証が免除になるのをきっかけに、2013年の訪日タイ人は45万人(前年174%増)を超え、2014年7月累計でも前年142%増と、タイでは空前の日本ブームになっています。当社がタイ人を対象に独自に行ったアンケート調査結果などからも、日本行旅行は大変関心が高く、中でも、本物の日本を見てみたい、本物の和食や〝おもてなし〞を体験してみたい、桜、紅葉、雪など四季を感じられるものなどもタイ人には魅力的に映っているようです。更に歴史や文化に興味を持っている方も多いと感じます。
クラスターが企業と地域にもたらすメリット
藤岡:今年2月に行われた神姫バス主催の播磨・姫路から京都を巡る広域モデルツアーに参加しました。日本の城で唯一の世界文化遺産である姫路城やその周りに広がる城下町、トム・クルーズ主演の映画「ラストサムライ」や大河ドラマ「軍師官兵衛」のロケ地にもなった書写山・圓教寺を巡り、生野銀山、コウノトリの保護に取り組む豊岡市を周り城崎温泉に宿泊、天橋立や和食を無形文化遺産登録へと導いた京都の老舗料亭「菊乃井」での食事を満喫するという、バスツアーならではの充実した3泊4日でした。姫路は日本酒発祥の地としても知られており、ほかにも魅力ある観光資源が豊富です。これらをどのよう
にタイ人向けにアレンジしていくか、日本のハイクオリティなバス旅行をどうPRしていくかが重要だと思います。
これにはやはり、飲食店や宿泊施設といった民間企業や団体組織だけでなく、大学や学生、地域住民、全員が参加し盛り上げていくクラスターアプローチが有効だと考えています。そして、クラスター同士が結び付けばより大きな知識共有のプラットフォームも形成されます。このように形成されたクラスターはチェーンではなくネットワークとして機能します。チェーンはひとつ外れるとバラバラになってしまいますが、ネットワークは網なので、ひとつ外れてもほかで対処することができます。プロジェクトに参加するステークホルダーの層が厚くなることで、取り組みが一時的なものからサステイナブルなものへ変わっていくことができ、相乗効果が増していきます。神姫バスは経営者が大きな時代の流れを見据えた上で、地域の核となりクラスターを形成している好事例だと思います。
三木:当社は1927年に創業し87年の歴史があります。
今回の外国人を呼び込むためのモデルツアー開催に当たって、地域の人たちにも積極的に協力してもらうことができ、あらためて今まで積み上げた地域との繋がりを実感しました。また、当社は関西でバス運営をしていますが、島根や茨城などの自治体やバス会社から、当社の取り組みについてヒアリングを受けるという思いがけない反響もあり、彼らとの連携の可能性も広がりました。
藤岡:企業が事業の中核と位置づけプロジェクトに取り組み、そのプロセスの中で例えば「この人に、こんな人脈があったのか」といった新たな発見が生まれ、そのことによって社内も活性化します。今回は社内だけでなく、地域などにもその活性化が波及したのかもしれません。
バンコクならBTSやMRTなどが走っており、移動も簡単ですが、地方では交通網が観光活性化のボトルネックになっているところがあります。回廊で繋がったアセアンをバスで繋ぎ、サービスエリアや道の駅を開設すれば、観光客が来てくれるようになり、今まであまり流通チャネルがなく、購買者との距離が遠かったタイ地方の名産品をバンコクに運ばずともPRすることが可能となります。飛行機では上を通り過ぎるだけですが、バスなら行く土地土地に立ち寄ることができ、地方の活性化にも繋がっていきます。
こうした形で生産者と市場とを結びつけることができれば、都市部のみならず、地域全体としてのインクルーシブ(包括的)な発展のための有力なアプローチとなる可能性があります。
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