勃興するASEAN、多様性を理解した地域戦略がカギ
東南アジア諸国連合(ASEAN)の広域経済連携の枠組み「ASEAN経済共同体(ACE)」が発足、世界の注目がASEAN市場に集まっている。日本企業はASEANの新時代にいかに対応すべきか。日本経済新聞社とサシン経営管理大学院で開講した「日経ビジネススクールアジア特別講座東京プレセッション」における藤岡日本センター所長の「アセアン経済共同体(AEC)と日系企業の地域戦略」をテーマとしたと講義の様子を以下に紹介する。
今の時代をひと言で表現すると、まさに変化の時代です。それだけに、基軸となるものの見方を持つことが必要です。その際、重要となるのがパースペクティブであり、ものの見方の多様性を理解することです。「正しい」「正しくない」が、問題なのではありません。
ASEANについていえば、10カ国あり、宗教も文化も異なり、経済の発展状況も各国ごとに違います。その多様性を理解することが大切なのです。しかし、物事を見る際、これまでの自分たちの経験、価値観を通じてしか現実は見えません。ですから、「思考のめがね」を強く意識する必要があります。
■アジアの世紀が実現する
世界経済の成長の原動力となっているのが新興国です。世界人口の半分がアジアに集中しており、今後も増加が見込まれます。2020年ごろには、欧米に肩を並べる経済規模になると予想されています。アジアの成長はいつまで続くのか。楽観的なシナリオでは、2050年には2010年の10倍、悲観的シナリオでも4倍と予想されています。
過去にとらわれると間違った意思決定をしかねません。変化のスピードに追いつくことができるか、が問われます。例えば、コンビニエンスストアの「セブンイレブン」の店舗数が日本に次いで世界で2番目に多いのがタイです。バンコク一極集中ではなく、地方にまで経済成長が波及しているためです。
これまで新興国ビジネスでは、首都圏など大都市に的を絞った「メガシティーアプローチ」がとられてきました。しかし、経済が成長してくると状況が変わってきました。新たに衛星都市を狙った「メニー・シティーズ・アプローチ」に変えていくことが必要となっています。問われているのは、この成長をどれだけ日本企業が取り込んでいるのかです。
日本企業のほとんどがアジア展開しています。社員数でみると海外展開のほとんがアジア。海外子会社の構成をみると、半数以上がアジアを占め、中小企業では8割にのぼります。よく「グローバル化」といわれますが、地域の重要性や人の多さ、かかわりの強さからいえば、「グローバル化」という言葉で繰るのではなく、地域を考える必要があるのではないでしょうか。
■「アジアの中の日本」へ「脱欧入亜」の時代がやってきた
戦略的にどの地域がどれだけ大切かを特定したうえで、施策をとらないと効果をあげられません。上場企業100社以上で、海外売り上げ比率が7割に達しています。これを50%とすると300社以上となります。さらに、営業利益をみるとアジアの構成比は4割近くなっています。まさに、アジアは利益の創出拠点となっているのです。
ここまでかかわりが強まってくると、日本にも大きな影響があります。アジアが直面する問題を日本自らの問題として受け入れ、解決する必要があります。30年前に指摘された「脱欧入亜」がまさに今、起こっているのです。これからは「日本とアジア」ではなく、「アジアの中の日本」、すなわち、パートナーを選ぶ立場から選ばれる立場になります。コペルニクス的転換となりますが、それを理解する必要があります。
海外進出といっても時代とともに意味合いが変わってきています。石油危機後、国際化の第1次ブームが起こります。国内市場の低迷から海外に活路を求めた、つまり「ものの移動」というパラダイムに基づくものです。円高ともに第2次ブームが到来します。アジアを迂回輸出の拠点として位置づけたもので、「資本の移動」のパラダイムによるものです。
今は第3次のブームといえます。現地の成長市場、中間層をいかに取り込むかという進出になっています。しかし、日本の本社に答えはありません。より現地適応を進める必要があります。いってみれば、これまで日本は主役でしたが、これからは脇役になるということです。こうした現実をしっかり受け止める必要があります。これに伴い、求められる戦略、人材も変わってくるのです。
駐在員に求められるスキルも「いかに成果を出すか」から、「いかに多様な人たちを動かして成果をあげるか」が大切になってきます。経営の本質は大勢の人の力を使って成果をあげることです。チームでいかに成果をあげるか。このため、教育や評価を変えていく必要があります。
■国単位ではなく地域で捉える重要性
ASEANは10カ国。いろいろな分類がありますが、地域で捉えると、「陸のASEAN」あるいは「グレーター・メコン・サブリージョン(GMS、大メコン経済圏)」と呼ばれるメコン地域をいかに押さえるかが日本にとって重要になっています。
AECによってひとつの市場が立ち上がってきます。ACEひとつでくるると経済規模は大きいですが、欧州連合(EU)などと違うのが貧富の差が大きいということです。さらに宗教も異なります。多様性のマネジメントと不均一性のマネジメントが経営においては重要になります。一方、経済の発展が段階的なため、いわゆる「タイムマシン経営」、国ごとの経済発展の時間差を使った経営も可能になります。
ASEANの人口は6億人。メコン地域には2.3億人ほどが住んでいます。インド12億人、中国13億人。ここだけで30億人を超える人口があります。その中心となるのがメコン地域です。ここを生産拠点とすることの重要性が高まっています。さらに重要なのは、道路が網の目のように張り巡らされていることです。
物理的インフラ整備によりメコン地域の連結性が向上、経済回廊を形成しています。中国は縦のライン、日本は横のラインに注力している。タイとメコン地域の経済成長の見通しは非常に高く、日本にとって重要な地域です。
国単位ではなく、面として地域として捉える必要が高まっています。メコン地域は世界経済の主戦場となってきます。日本企業の現状は楽観視できません。これまでの輸出拠点から、世界市場の半分を攻略するための戦略パートナーと位置づける必要があります。
■個別企業の戦いからエコシステム間の競争へ
AECのポイントは「コネクティビティー(接続性)」にあります。物理的なコネクティビティーに次いで、制度的なコネクティビティーでの取り組みが進められています。連結性が高まればその分、世界経済の影響を受け、リスクも増します。ACEは法的拘束力がないので、互恵的な発展とその地域の競争力につながらないと、持続的な競争が実現できません。時間軸と空間軸を考慮する必要があるため、これまでの経営とは変わり、難易度も高まります。
これからの競争は価値の競争となるため、個人ではなく、チームによる競争となります。東京とアジアでは時間の進み方が違います。そのスピードに対応するにはパートナーシップが必要となります。これからの競争は個別企業同士ではなく、パートナーシップ同士、アライアンス間、エコシステム間の競争となります。
時間軸、空間軸を持つということは戦略的な構想力を持つということです。戦略とは「何をしないかを決めること」です。トップマネジメントの仕事は決断すること。足し算ではなく、思い切って省いていくことが、新興国ビジネスでは大切になります。
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